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台本:朗読(5)被疑者


♪ 朗読を聞く ♪
朗読:あきら(明響止水


ひどく汚れた頭巾。
同じくひどく汚れた、つぎはぎだらけの服。
腰には小さな短剣を携えている。

名前を聞いてみたが、不思議そうな表情が返ってくる。
ことばが通じていないことを、姫は直感した。

馬を飛ばし、街の人々の目をくぐり抜け、
姫は少女をこっそりと城の中に入れた。
しかし、小柄な少女をマントの中に隠せても、
血と泥の臭いまでは隠せなかった。

いつも堂々と、気品高く振る舞う姫が、
そそくさと半身のまま階段を駆け上がる。
その不自然さが、衛兵達の警戒感を
ますます高めてしまう。

城の上へ、上へ。
普段の落ち着きが、かえって窮地へと姫を追い込む。
城の上へ、上へ。
泥と血の臭いと、焦る足音の方向へと衛兵達がなだれ込む。

そして、最上階。
立ちはだかる姫。影に隠れる少女。詰め寄る衛兵達。
距離が、詰まる。