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♪ 朗読を聞く ♪
朗読:癒廼(Familiar Company)
その時だった。
姫も衛兵達も、信じられない光景を目にする。
姫のマントの陰から少女が飛び出し、
最前列の衛兵へと突っ込んでいった。
剣を構えていた最前列の衛兵たちも、
相手が真正面から向かってきたことに、一瞬ひるむ。
その隙だった。
短剣がひとりの衛兵の剣を小さく打ち払う。
わずかに体勢を崩した衛兵の肩口に飛び乗った少女。
そして、飛んだ。
階段に詰めかけた衛兵たちの、あっけに取られた顔。
その真上を小さな影が音もなく通り過ぎていく。
誰もが見とれる美しい宙返りは、
らせん階段の壁で次々と反射した。
そして、着地の音が小さく響いたのは、
衛兵達の輪のはるか外。
驚きから抜け出せない者達を置き去りにして、
小さな足音は廊下へと駆け出した。
衛兵のひとりが我に返り、怒号を上げる。
それにつられて他の衛兵達が叫びながら階下へ走り出す。
姫も声を上げたが、かき消されてしまった。
逃走劇の火蓋が、切って落とされた。